インサート成形品の設計で、押さえておきたい3つのポイント
インサート成形は、異なる素材を一体化する非常に効率的な技術ですが、その特性を理解せずに製品設計を進めると、品質不良や生産性の低下を招き、納期遅延はおろかコストアップにも繋がる可能性があります。
今回このコラムでは、インサート成形品を設計する技術者の方にぜひ知っておいていただきたい3つのポイントをお伝えしたいと思います。特に、射出成形の製造プロセスに詳しくない設計者の方はご一読ください。
1. インサート成形は、インサート品の固定と位置決めがとても重要
金属などのインサート部品は、まず射出成形用金型にセットされ、その後金型内に樹脂が射出されるのですが、この時、金型内には非常に高い圧力で溶けた樹脂が射出されます。
つまり、射出成形時にインサート品が金型内で動かないように、確実に固定できる構造を検討することが必要です。
例えば、金型側でインサート品を保持するためのピンやリブなどを設けるスペースを確保したりするなど、樹脂が充填される際にインサート品が浮き上がったり、流されたりしないよう、しっかりと位置決めできる形状を考慮する必要があるのです。
もちろん、金型内でインサート品を保持する方法は、金型設計者が検討しますが、この検討の結果、インサート品に保持用の穴や段差などを設けることで、より確実な固定が必要になるケースがあり、その際、製品形状をある程度変更する必要が出てくることは、よく理解しておく必要があります。
なお、実際のインサート成形品を試作から量産まで立ち上げるプロセスにおいては、まず製品設計者が形状を決めた後にインサート成形を行う企業に相談され、金型内でのインサート部品の固定方法を検討・提案したところ、製品形状の変更が必要になる、ということが多くあります。
しかし、製品によってはどうしても形状を変更できない場合もあるため、そのような場合はインサート成形を2回行うという方法もあります。ただしこの方法はコストアップになりますので注意が必要です。
2. 樹脂の流動性と肉厚バランスを考慮する
これは射出成形全般に共通する事項とも言えますが、溶けた樹脂がインサート品の周囲をスムーズに流れ、金型全体に均一に充填されるよう、適切な肉厚を確保し、急激な肉厚変化を避けるよう、製品設計を行うことが必要です。
薄すぎる部分や複雑すぎる形状は、樹脂がうまく充填されず、ボイド(気泡)やショートショット(未充填)の原因になることがあります。
特にインサート成形においては、樹脂の流れる道筋がインサート品によって遮られないように、また、インサート品との隙間が狭すぎると樹脂がスムーズに流れ込めないことを考慮し、全体的に樹脂が無理なく充填される肉厚をイメージしながら設計を行うことが、成形時のトラブルを回避し、安定した品質のインサート成形品を入手するポイントとなります。
もちろん製品設計の際に、金型設計を行う会社と協議して進めることは、とても有効です。
3. 異種材料間の熱膨張差と応力集中を考慮した設計を行う
樹脂とインサート品は、加熱と冷却の過程で異なる膨張・収縮率を示します。
この熱膨張差によって発生する応力が、成形品の反り、ひび割れ、インサート品の抜け落ちの原因となることがあります。
特に、インサート品が大きく、かつ板状の場合は注意が必要です。
なぜなら、製品の大きさが大きくなると収縮度合いが大きく変わり、歪み・曲がりが顕著に現れるためです。
また、応力集中が発生しやすいのはポリカ等の硬い樹脂です。
硬い樹脂は製品内のインサート部品がつっぱり、いわば樹脂と喧嘩してしまうので、靭性の低い樹脂の方が割れてしまうのです。
これへの対処としては、熱膨張差による影響を緩和するよう、インサート品のエッジ部分に丸みを持たせたり、樹脂がインサート品を拘束しすぎないような形状(逃がしを入れるなど)を検討したりする設計が大切です。
もし可能であれば、樹脂が食い込むような「アンカー」となる形状をインサート品に設けることも有効です。
なお株式会社御幸では、上記を予見した上で、金属のインサート品の形状に応じて判断し、提案を行っています。