射出成形金型.COMのインサート成形について

インサート成形とは? 2色成形では難しい製品形状を実現する技術とその使い分け

「インサート成形」は、射出成形技術の中でも特に複雑な機能や形状を持つ製品を作るために不可欠な技術です。
特に樹脂インサート成形は、異なる材質の樹脂を組み合わせて一体化させるという点で2色成形と似ていますが、ある特定の条件において、2色成形では実現できない製品形状を可能にします。

本記事では、インサート成形(特に樹脂インサート成形)の必要性、2色成形との構造的な違い、そしてどのようなケースでインサート成形が選ばれるのかを詳しく解説します。

1. 樹脂インサート成形が必要とされるケース

樹脂の射出成形において、複数の樹脂材料を組み合わせたい場合、主に「2色成形」か「インサート成形」が選択肢となります。

樹脂インサート成形とは、先に成形した「1次成形品(インサート品)」を金型内にセットし直し、その上から「2次成形用の樹脂」を射出して一体化させる技術です。
これにより、単一の成形では得られない機能やデザイン、構造を実現します。

しかし、なぜわざわざ手間のかかるインサート成形を行う必要があるのでしょうか。
それは、製品の複雑な形状や生産設備の問題など、2色成形の構造的な制約を超越する必要がある場合に限られます。

2. 2色成形とインサート成形の決定的な違い

2色成形とインサート成形は、どちらも異なる樹脂を一体化させる技術ですが、その実現方法には決定的な構造上の違いがあります。

2色成形の金型構造が持つ制約

一般的な「回転式2色成形」では、1つの金型内で1次成形を行い、コア側(可動側)を回転させて2次成形を行います。

この時、金型は「固定側」と「可動側」に分かれます。

  • 可動側(コア側): 成形品を保持するので容易に形状を変えることができません。
  • 固定側(キャビティ側): 樹脂を射出するノズル側であり、基本的には固定側で形状を変更します。

つまり、金型の構造上、可動側での形状が制約を受けるものや、溶融温度の大きく違う樹脂同士では、2色成形では成形が成立しない場合があります。

インサート成形が制約を解消する

対して樹脂インサート成形は、1次成形品を一旦金型から取り出し(離型させ)、別の金型または別のキャビティにセットし直すため、2色成形のような構造的な制約を受けにくくなります。

「2色成形ではすべての形状を実現することが難しい」、このような製品形状を実現したい場合に、排他的な選択肢として樹脂インサート成形が採用されます。

3. インサート成形が選ばれる具体的なケース

製品形状の制約以外にも、樹脂インサート成形が2色成形よりも優先される条件がいくつか存在します。

ケース①:製品形状により2色成形が成立しない場合

最も直接的な理由です。

  • 2色成形機や金型の構造では対応できない複雑な製品形状。

ケース②:製品スケールが大きい場合(コスト面での排他的選択)

製品のスケール(大きさ)も重要な選択基準となります。

  • 小物製品:形状が成立するなら、自動で成形できる2色成形がコスト的に優位です。
  • 大物製品:製品サイズが大きくなり、例えば200トンクラスの成形機が必要になった場合を考えます。
    • 2色成形:200トン×2ノズル=400トンクラスの非常に特殊で高価な2色成形機が必要になります。
    • 樹脂インサート成形:200トンクラスの汎用的な成形機を2台使用すれば対応可能です。

スケールが大きくなると、対応できる2色成形設備を持つ企業が少なくなるため、設備保有状況やコストを勘案し、インサート成形が排他的な選択肢として検討されることがあります。

ケース③:異なる樹脂の「溶融温度差」が大きい場合は注意が必要

ほとんどの場合、1次成形と2次成形で使用する樹脂は異なる材質が選ばれます。
特に、2次成形用の樹脂の溶融温度が1次成形用の樹脂の融点よりも高い場合、2色成形・インサート成形どちらの成形方法でも問題が生じることがあります。

例えば、1次成形にPP(融点180℃程度)、2次成形にTPE(融点220℃)を使用する場合、2次成形の際には高い温度の樹脂を射出することで、1次成形品を溶かしながら溶着させることが求められます。 この際、1次側の融点が低い樹脂が熱により変形してしまう可能性もあるので、最適な成形方法あるいは最適な材料を選択することが重要です。

まとめ:選択のポイントは「形状とコストのバランス」

選択の基準 2色成形が優位 インサート成形が優位
製品の形状 2色成型機の構造的な制約内に収まる形状 2色成形では対応できない複雑な凹凸・固定側が複雑な形状
スケール(サイズ) 比較的小物製品 比較的大きな製品(大型汎用機で対応可能)
コスト 製品形状が成立し、スケールが小物であればコスト優位(自動化) 製品形状が成立しない、または大物で設備費用を避けたい場合
異種材料 樹脂同士の組み合わせが基本(高い密着性) 樹脂同士はもちろん、金属や電子部品など異種材料の組み合わせ

総括として、製品形状として成立するなら2色成形の方がコスト面で優位です。
しかし、2色成形の構造的な限界や、大規模な設備投資を避ける必要がある場合には、インサート成形が最適なソリューションとなります。